で、警官から導かれるまま、近くの警察派出所へおとなしくついて行った。
数名の人々が後に続き、彦一も一番後からついて行った。
派出所の中で、彼は前と同じようなことを数言怒鳴った。それきりで、もう口を利かなかった。彦一の方は見向きもしなかった。
彼の身内の者らしい若い男と、町内の有力者らしい老人とが、警官にしきりと何やら釈明していた。一通りの調書を取られて、彼はその二人に守られ、先に立ってすたすた歩み去った。
別に危険な狂人というわけではなかったのだ。家庭も裕福な方で、彼は謂わば隠居の身の上だった。
事はそれで済んだ。葦の茂みのそばの燃やし火も直ちに消し止められていた。
然し、田中さんは拘禁されてるわけではなく、葦はまだ茂っており、いつどういうことが起るか分らなかった。不安な空気が漂っていた。それで、警官や有力者の肝入りで、葦の茂みのある土地の所有者と談合の上、葦はすっかり刈り取られることになった。
松の古木一本だけで、その下の方に、浅い泥沼が広がり、さっぱりした土地になった。
少年の怪死事件は、いろんな謎を秘めて、未解決のまま残された。
おれはまだ自由を欲する、と彦一は
前へ
次へ
全19ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング