ぎなことには、そのきえうせた汽車からおりてきた火夫《かふ》だけが、こちらからいく火夫《かふ》の方へ、同じような足どりで歩いてきます。
私はおりていこうとしました。がもうその時、両方《りょうほう》の火夫《かふ》は線路《せんろ》の上でであっていました。立どまって、何か話してるようでした。すると、こちらの火夫《かふ》が、いきなり向《むこ》うの男になぐりかかりました。とたんに、向《むこ》うの男の姿《すがた》がきえて、火夫《かふ》は足もとに、なにかへんなものをおさえつけています。
私はいきなり、助手《じょしゅ》やほかの火夫《かふ》といっしょに、機関車《きかんしゃ》からとびだして、かけつけていきました。みると、火夫《かふ》は大きな獣《けだもの》を力一|杯《ぱい》におさえつけています。それは、年とった一ぴきの大きな狸《たぬき》でした。
それでやっとわけが分りました。その狸《たぬき》め、汽車にばけて、こちらの汽車のとおりに進《すす》んできたところが、こちらがとまったので、向《むこ》うでもとまって、それから火夫《かふ》がおりて行くと、汽車の方を忘《わす》れてしまって、火夫《かふ》だけにばけて、つか
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