状しますよ。千代乃も自身から進んで、その祕密をわたしに明かしました。」
そこで、周は尾高に向って、元金返済の催促をし、延びるようならば、月五歩の利子を払って貰いたい、と談判した。
「親兄弟の間だって、金を貸せば利子を取ります。誰が無利子で金を貸す者がありますか。今時、月五歩の利子といえば、たいへん安いものです。わたしが尾高さんに月五歩の利子を請求するのが、どうして悪いことがありますか。正当な権利ではありませんか。」
尾高もさすがに、千代乃から金を借りていないとは言わなかったが、利子の件はそっぽ向いて取り合わなかった。そしてそれからは、濁酒の極上品の仕入れ先はどこかと、しつっこく千代乃に尋ねかけた。だが、その仕入れ先こそ、周伍文の唯一の祕密だったのである。固より、自家で造っているものではなかった。
「誰にも言ってくれるな、よろしい、誰にも言わない、そういう約束です。男と男との約束です。信用の問題です。人間としての信義の問題です。日本のひとは、約束を破って、祕密をもらすことを、自慢にさえしているようですが、わたしどもは違います。一旦誓った約束ならば、たとえ女房に対しても守ります。わたし
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