、中の煙がふーっと出て来ました。皆はあわてて、破れ目を押えました。がもう間に合いませんでした。外に出た煙の中に笑い声がして、お爺《じい》さんの姿が現われました。
 お爺さんは、あっけにとられてる子供達を見下ろしながら、笑顔をして言いました。
「お前達はえらいことを考えついた。わしを袋の中へ入れてしまったな。だが、袋の横腹《よこっはら》を破ってのぞいたのがいけなかった。煙は上へ上へと昇るものだから、下からのぞくとよかったのだ。……それにしても、とにかくお前達はえらい。ごほうびに、明日から、この林の中にいっぱいきのこがはえるようにしてあげよう。ただ、それを取る時には、ありがとうと言わないと、きのこはみななくなってしまうから、よく覚えておくがよい」
 そして、お爺さんの姿は消えてしまいました。

      四

 子供達は、お爺さんを捕《つか》まえそこないましたけれど、きのこのことを考えると、うれしくてたまりませんでした。
 翌日になると、子供達は朝早くから起き上がって、皆誘い合わして、胸をどきつかせながら、林の所へやって来ました。するとどうでしょう。林の中一面に松茸《まつたけ》や初茸《はつたけ》やしめじや……金茸《きんたけ》銀茸《ぎんたけ》などが、落葉や苔《こけ》の中から頭を出してるではございませんか。
「やあ、たくさんはえてる!」
 皆は我を忘れて、林の中に駆け込んで、きのこを取り始めました。ところが不思議なことには、その一つを取ってしまうと、今まではえてたのはもちろんのこと、手に取ったきのこまでが、煙のように消えてなくなりました。
 子供達はびっくりして、互《たが》いに顔を見合わせました。するうちに、ある一人がふと思い出しました。
「あ、しまった! ありがとうを忘れたからなくなったんだ」
 なるほど、きのこを一つ取るごとにありがとうと言わなければならなかったのです。
 子僕達は相談しました。お爺《じい》さんを呼び出して、謝った上で、またきのこをはやしてもらおうと考えました。それで、例の通りたき火をし、歌ったり踊ったりして、お爺さんが煙の中に出て来るのを待ちました。けれど、どうしたのか、お爺さんは出て来ませんでした。
 子供達は悲しくなって、中にはもう涙ぐんでる者さえありました。すると、ある一人が言い出しました。
「お爺さんは怒ってるに違いないや。だけど、お爺さんは
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