来ました。
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いーつつ、いつつ、
いっしょにみんな、とんで出ろ。
王子様のもてなしに、
わあそび、こそび、
くるりと廻って、くるくるり。
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 すると、眼の前の芝地《しばち》は森の精でいっぱいになりました。みんな頭には、いろんな草や木の花を一つずつつけていました。そして手をつないで、円《まる》く輪になっておもしろい唄を歌いながら踊りました。
 王子はそれを見て、夢のような心地《ここち》になられました。森の精の踊りはいつまでも続きました。いくら続いても飽《あ》きないほどのおもしろい踊りでありました。
「お時間じゃ、お時間じゃ。御殿《ごてん》のしまるお時間じゃ」と、どこからかふいに声がしました。すると今まで踊っていた森の精達が、一度に高く飛び上がったかと思うと、地面に落ちつく時にはもう姿がなくなっていました。
 王子はびっくりして、あたりを見廻されますと、千草姫《ちぐさひめ》はやはり微笑《ほほえ》んだまま立っていました。そして王子に言いました。
「もう遅くなりますから、今晩はこれきりにいたしましょう。またお迎えをあげますから、その時に来て下さいませ」
 王子はもっとそこにいたく思われましたが、姫からそう言われて仕方なしに帰られました。いつのまにか、矢車草《やぐるまそう》の花をつけた森の精が出て来て、王子を城の庭まで送って来ました。

      二

 それから王子は、月のある晩はたいてい白樫《しらがし》の森の中に行って、森の精達と遊ばれました。その上千草姫からいろんなことを教えられました。森の精達は、もとは野原に住んでいる野の精でありましたが、野原が開かれてたんぼにされてしまいましたので、今では森の中に隠れてしまって、森の精となったのでした。そして千草姫は、新しい森の精と元からの森の精との女王となっているのでした。それで姫は元の野原のことも、今のたんぼのことも、前からすっかり知っていました。今年の夏にはひでりがあるとか、秋には洪水《こうずい》があるとか、そういうことを前から言いあてました。王子はそれを聞かれると、いちいち父の国王に申し上げました。国王は笑われましたが、王子があまり何度も申されますので、おしまいには試《こころ》みにその用心をされました。
 夏にひでりがしましても、山奥の泉から水が引いてありましたので、百姓達は少
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