純粋持続を以て経過する。
かくて、幾日幾夜かを経た。老僧の両眼は次第に力を失って、その代りに、額の皺が次第に深まり、それが一の眼となって、他物は一切見ず、ひたすら女の方を見つめている。女はその眼に見入られながら、次第に生気を失い、蝋のような蒼白な不動に陥っている。そして見つめ見入られながら、二人は呼吸も次第に細ってゆく……。
程へて、その洞窟内に、二つの死体が発見された。一つは、痩せ細った老僧の死体で、額に大きな眼のある三つ目の、骨と皮ばかりのものだった。も一つは、美しい娘の死体で、豊かな肉体がそのまま蝋化した、みごとなミイラだった。
洞窟内のこの秘密は、二人以外の誰によって知られたのか、或は想像されたのか、そこのところは不明であるが、とにかく、二つの死体が発見されたのは事実で、それが鄭重に黒檀の箱に納められ、洞窟の中に安置され、更に鉄柵を以て俗縁を断たれて、秘仏として礼拝されているのである。
この秘仏は、永劫不可見のものとなっている。それを、ヒマラヤから西蔵へかけて或る秘密探査に行った某君が、旅のつれづれのまま、ひそかに鉄柵を開き、黒檀の箱まで開いて、中を覗いてしまったのであ
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