る。
既に覗かれたものである。茲に発表しても、さして仏罰はあたるまい。なおその上、右の某君の冒涜な言は、筆者の筆を走らす動機の一つともなった。某君は酒席などで、酔余の饒舌のうちに、若い美妓なんかに対して、往々変なことを口走る。
「君なんかは、若くて美しいから、用心し給い。あんまり色恋に夢中になって、見つめたり、見入られたりすると、危険だよ。一心に見つめると、三つ目になるし、一心に見入られてると、ミイラになるからね。」
そして、某君は呵々大笑するのだが、可笑しいのは夫子一人だけで、誰にも何のことやら分らない、筆者だけには分るが……。
然し、某君のそういう駄洒落こそ、秘仏の話を涜すものであり、更に、沈黙の美を涜すものであろう。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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