みなしとしない。
ところが、「牡丹圏」になると、突如、絢爛たる大舞台の幕が切って落され、咲き乱れてる牡丹の花を背景に、大猩猩が存分に舞い狂う。次の大舞台では、牡丹の花と天女の音楽のなかで人間と鬼との、奇怪な、滑稽な、実は真面目な出会。そして最後に、螺鈿の天の大満月。――表現は奔放自在、韻律を無視した語彙。まさに歌舞伎のそれである。
「鬼女」になると、同じく大舞台ではあるが、歌舞伎から能へと、引き緊った感じである。詩としての格調も整ってくる。
これらの絵巻物は何を示すか。心平さんの、覇気と冒険と能才とであろう。
六
海は天と照応する。
自然のうちで海こそは、心平さんが最も心惹かるるものであろう。心平さんが地の一隅を睥睨する時、その瞳には、地平を超えて、遙かに海が映らなかったであろうか。
海は流転きわまりなく、ことごとに色を変え、ことごとに相貌を変え、千古を通じて新らしく、永劫を通じて古く、非情のうちにすべてを呑みつくして、万鈞の重みに静まり返ってるのである。
その海が、心平さんの心眼の中にあって、そして心平さんは機会ある毎に、方々の個々の海を肉眼で見たがる。見
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