とは、詩人として却って幸福なことだ。
 然し、天をじかの対象とせずとも、それを背景として、いろいろな表現が為され得る。その時、天の比重はさまざまになる。心平さんの近著「天」の後記の一節を見よう。
「数年前、私の天[#「天」に傍点]に就いての或る人のエッセイが詩の雑誌にのったことがあった。私はそれまで天というものを殊更に考えたことはなかったのだが、ふと……従来の詩集をひらいて天のでてくる作品に眼をとおした。あるあるあるある。私のいままで書いた作品の約七十パアセントに天がでてくる。」
「富士山の詩を私は永いあいだ書いてきたように思うが、もともと富士山などというものは天を背景にしなければ存在しない。」
 つまり、天は心平さんの、意識的にせよ無意識的にせよ、バック・ボーンなのだ。本書に採録してる作品の多くにも、天が出てくる。だからここには、代表的なもの五篇だけに止めておいた。

      二

[#ここから2字下げ]
ああ天の。
大ガラス。
薄氷をジャリリと踏んで自分はこの道を曲る。
[#ここで字下げ終わり]

 同じ所に突っ立っていても、自然の夜明けは来るのだけれど、詩人の決意は、一つの道
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