ール、スフィンクス、人魚、フォーヌ、サチール……。半人半獣の獣性から神性のことまでを想う。
 足許の紙片や糸屑は、益々不快な印象を私の眼に送る。私は崖地から足を返す。そして、人間の息吹のかかったものは凡て拾い出すように頼んでいるにも拘らず、それを不注意にも落葉と共に崖地に撒いた家人の無神経さに対して、私が苛立つのは、苛立つ方がいけないのであろうか。
 さはあれ、落葉の上を一人で歩くのは淋しく、二人で歩くのは楽しく、大勢で歩くのは喜ばしいだろう。自然の中にはいって汚れを知らない人間を、更に、自然の中にはいって汚れを知らない生活を、私は夢想する。

「東京から黒砂糖が駆逐されることを、僕は悲しく思う。僕の少年時代には、大抵の砂糖屋には、あのねっとりした黒砂糖があったものだ。それが、この頃では殆んど見当らない。文明の進度は、砂糖の消費量に比例する、或は白砂糖の消費量に比例する、と云われるけれど、黒砂糖を駆逐して白砂糖を使うところに、何の文明だ。僕はそういう文明人の味覚を軽蔑する。」――と、これは、さる食道楽者の言葉である。
 然し私に云わすれば、黒砂糖よりも寧ろ砂糖黍を何故讃美しないか、と反
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