。それは彼の深い莫大な信念からというよりも、むしろ彼女の高潔なる特性による必然的の力に由来しているのであったが、今や彼の精神は、これまで情熱に心酔して登りつめていた高所に踏みとどまることを許さなくなった。彼はひざまずいて世俗的な疑惑の前に降伏[#「伏」は底本では「状」]し、それがためにベアトリーチェに対する純潔な心象をけがした。彼女を見限ったというのではないが、彼は信じられなくなったのである。
 彼は一度それを試みれば、すべてにおいて彼を満足させるような、ある断乎たる試験を始めようと決心した。それは、ある怪異な魂なくしてはほとんど存在するとは思われないような恐ろしい特性が、はたして彼女の体質のうちにひそんでいるかどうかということを試験することであった。遠方から眺めているのならば、蜥蜴《とかげ》や、昆虫や、花について、彼の眼は彼をあざむいたかも知れない。しかも、もしベアトリーチェがわずか二、三歩を離れたところに、新しい生きいきとした花を手にして現われたのを見たとすれば、もはやその上に疑いをいれる余地《よち》はなくなるであろう。こう考えたので、彼は急いで花屋へ行って、まだ朝露のかがやいてい
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