いことを考えていた。しかも今や彼の胸には、不思議な、時ならぬ平静が湧いていた。彼はベアトリーチェか、またはその父がそこらにいるかと思って、庭のあたりを見まわしたが、まったく自分ひとりであるのを知ると、さらに植物の批評的観察をはじめた。
 ある植物――否《いな》、すべての植物の姿態が彼には不満であった。その絢爛《けんらん》なることもあまりに強烈で、情熱的で、ほとんど不自然と思われるほどであった。たとえば、ひとりで森の中をさまよっている人が、あたかもその茂みの中からこの世のものとも思われぬ顔が現われて、じろりと睨《にら》まれた時のように、その不気味な姿に驚かされない灌木はほとんどなかった。また、あるものはいろいろの科に属する植物を混合して作り出したかと思われるような、人工的の形状で、感じやすい本能を刺戟した。それはもはや神の創造したものではなく、単に人間がその美を下手に模倣して、堕落した考えによって作りあげたものに過ぎなかった。これらはおそらく一、二の実験の結果、個個《ここ》の植物を混合して、この庭の全植物と異った、不思議な性質をそなえたものに作り上げることにおいて成功したのであろう。ジョ
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