らいで、日光が葉がくれにちらちらと輝いているのが見えた。ジョヴァンニは更に進んで、隠れた入り口の上を蔽っている灌木の蔓《つる》がからみつくのを押しのけて、ラッパチーニ博士の庭の広場にある自分の窓の下に立った。
 われわれはしばしば経験することであるが、不可能と思うようなことが起こったり、今まで夢のように思っていたことが実際にあらわれたりすると、歓楽または苦痛を予想してほとんど夢中になるような場合でも、かえって落ち着きが出て、冷やかなるまでに大胆になり得るものである。運命はかくのごとくわれわれにさからうことを喜ぶ。こういう場合には、情熱が時を得顔《えがお》にのさばり出て、それがちょうどいい工合《ぐあい》に事件と調和するときには、いつまでもその事件の蔭にとどこおっているものである。
 今のジョヴァンニは、あたかもそういう状態に置かれてあった。彼の脈搏《みゃくはく》は毎日熱い血潮で波打っていた。彼はベアトリーチェに逢って、彼女を美しく照らす東洋的な日光を浴びながら、この庭で彼女と向かい合って立ち、彼女の顔をあくまでも眺めることによって、彼女の生活の謎になっている秘密をつかもうと、出来そうもな
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