知らぬ人は部屋を眺めまわしました。そして彼の光を放つような微笑で、部屋の中の金で出来たいろいろの品物をみんなきらきらと光らせてから、またマイダスの方に向きなおりました。
『マイダスさん、あなたはお金持ですね!』彼は言いました。『こうしてあなたが一生けんめいこの部屋に積上げられたほどの金のはいった部屋は、世界中何処へ行っても、ほかにはなさそうですね。』
『わしもかなり集めましたよ――かなりね、』とマイダスは、まだ満足出来ないといった調子で答えました。『しかし結局、これだけ集めるのに、一生かかったことを思うと、あんまり少なすぎますよ。人間も千年くらい生きられるものなら、金持になる暇もありましょうがね!』
『何ですって!』と見知らぬ人は叫びました。『それじゃあなたは、まだ不足なんですか?』
 マイダスは頭《かぶり》を振りました。
『では一体、どうなったら満足するんです?』と見知らぬ人は尋ねました。『あんまり変っているので、ちょっとお訊きするだけのことですが、是非一つ、うかがいたいものですなあ。』
 マイダスはちょっと考え込みました。彼は、やさしい微笑に金色の光をさえ含んだ、この見知らぬ人は、
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