ればなりません。でないと、打ちかかろうとして腕を上げている間に石になってしまって、その腕を上げたままの姿勢で、年月と風雨とが彼をすっかりぼろぼろにしてしまうまで、何百年でも立っているようなことになるでしょう。これは、輝かしく美しいこの世界で、彼のようにこれから沢山の手柄もたて、いろいろいい目にも会いたいと思っている青年の上に起るにしては、あまりにも悲しいことです。
 こんなことを考えると、たいへん悲しくなって来て、彼は、やりましょうと引受けたことを、お母さんにお話しするに忍びませんでした。そこで彼は、盾を取り、剣をつけて、島から本土へと渡りましたが、淋しい所に一人で坐ってこぼれて来る涙を抑えかねました。
 しかし、彼がこうして悲しい気持でいると、すぐ傍《そば》で声がしました。
『パーシウス、』とその声は言いました、『何故お前は悲しんでいるのだ?』
 彼は伏せていた顔を、手から上げました。ところがどうでしょう、パーシウスが自分一人だけだと思っていたのに、この淋しい所に一人の見知らぬ人がいたのです。それは元気そうな、才智ありげな、そしてとても利口そうな顔附をした青年で、肩に外套をかけ、頭に
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