てこの時、ほんのつまらないことながら、ちょっと不思議なことが起りました。その杖がひとりでに地面から起き上って、その小さな両方の翼をひろげて、半分|跳《は》ねるように、そして半分は飛ぶようにして、家の壁のところに立てかけたようになったのです。そのままそれはじっとしてしまって、ただ巻きついた蛇が、相変らずうごめいているだけでした。しかし、僕の考えでは、フィリーモン爺さんの眼が悪いから、またそんな風に見えたのかと思います。
爺さんが何か訊いてみようと思っているうちに、年上の方の旅人が彼に話しかけて、その不思議な杖から彼の注意を外《そ》らしてしまいました。
『ずうっと古い昔には、いま村のあるところ一帯が、湖だったんじゃありませんか?』とその旅人は、大変深い調子の声で尋ねました。
『わしが知ってからは、そんなことありませんよ、お前さん、』とフィリーモンは答えました、『わしもごらんの通りの年寄ですがね。以前から、今の通りの野原や牧場ですよ、それから、古い木も、谷のまん中をせせらぎ流れる小川もね。わしの知っている限りじゃ、おやじの代にも、またそのおやじの代にも、同じことだったようですよ。そしてこの
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