うしても姫が金になってしまったとは信じられませんでした。しかし、またちらっと盗見《ぬすみみ》すると、やはり黄色い頬に黄色い涙をつけた、大事なわが子の像があるのです。そのいじらしい、やさしい顔附といったら、まるでその表情の力で、きっと金をやわらげて、再びもとの生身《いきみ》に返るに違いないと思われるほどでした。しかし、そうは行きませんでした。だから、マイダスはただ手を揉み絞って、もしも彼の財産を全部投げ出して可愛い姫の顔に少しでももとの薔薇色が返って来るものなら、どんな貧乏人になってもいいと思うばかりでした。
 こうして絶望にあがき苦しんでいた時、彼は見知らぬ人が戸口の傍に立っているのにふと気がつきました。マイダスは頭を垂れて、いう言葉もありませんでした。というのは、それが昨日彼の宝の庫に現れて、何でも金にするという飛んでもない力を彼に授けて行ったのと同じ人の姿だということが分ったからです。その人は相変らず顔に微笑を含んでいましたが、その微笑は部屋中に黄色い光を放って、小さなメアリゴウルドの像や、そのほかマイダスの手に触れて金になったいろんなものを照らしているような気がしました。
『どう
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