いた手を放して、その大変な高さから、地上に向って落ちて行きました。そして、そいつの胸の中の火は、消えるどころか、前よりも一層はげしく燃立って、たちまちその死骸を焦がしはじめました。そんなわけで、怪物はすっかり火になって空から落ちましたが、それが地にとどくまでに、夕方になったので、流れ星や箒星《ほうきぼし》と間違えられました。しかし、あくる朝、その辺に住む人達が働きに出ようとして、何|町歩《ちょうぶ》かの土地に黒い灰がちらばっているのを見てびっくりしました。或る畠のまん中には、白い骨が乾草堆よりもずっと高く、山のようになっていました。あのおそろしいカイミアラの名残《なごり》は、そのほかにはなんにもありませんでした!
そして、ビレラフォンは、こうして勝利を得た時、前かがみになって、ペガッサスに接吻しました。その時、彼の眼には涙がうかんでいました。
『さあ帰ろう、わが愛馬よ!』彼は叫びました。『ピリーニの泉をさして帰ろう!』
ペガッサスはこれまでよりも更に速く、滑るように空中を飛んで、いくらもかからないで、その泉へ着きました。そこにはあの老人が杖にもたれ、百姓男は牛に水を飲ませ、きれいな娘は瓶に水を汲んでいました。
『今になって思い出したが、』と老人は言いました、『わしはまだ全くの若者だった頃、一度この翼のある馬を見たことがあるよ。しかし、その時分には、この馬も今の十倍も立派だったがなあ。』
『わしはこの馬の三倍の値打のある荷馬車馬を持っているよ!』と百姓男は言いました。『もしもこの小馬がわしのものだったら、第一にわしはその翼を剪《はさ》んでしまうね!』
しかしあの気の弱い娘は何も言いませんでした。というのは、彼女はいつも、こわがらなくてもいい時にこわがるようなことになってしまうのでしたから。そんなわけで、彼女は逃げ出して、水瓶をひっくりかえして、それをこわしてしまいました。
『あのおとなしい子供はどこにいます?』とビレラフォンは尋ねました、『いつも僕の傍にいて、決して信念を失わず、飽《あ》きもしないで泉の中を見つめていたあの子は?』
『僕ここです、ビレラフォンさん!』とその子供は、やさしく言いました。
その小さな子は、実は、毎日々々ピリーニの泉の傍で、彼の友達が帰って来るのを待っていたのですが、ビレラフォンがペガッサスに跨がって、雲の中からおりて来るのを見ると、灌木の中へ逃げ込んでしまったのでした。彼は気の弱い、やさしい子だったので、彼の目から涙がぽろぽろとこぼれて来るところを、老人と百姓男とに見られるのがいやだったのです。
『あなたは勝ちましたね、』と彼は言って、まだペガッサスに跨がっているビレラフォンの膝の方へ、嬉しそうに駆け寄りました。『僕、あなたが勝つだろうと思っていた。』
『勝ったよ、君!』と答えて、ビレラフォンは馬からおりました。『しかし、もしも君の信念の助けがなかったら、僕は決してペガッサスを待たなかっただろうし、雲の上へも上れなかっただろうし、またおそるべきカイミアラを退治ることも出来なかっただろう。僕の大好きな小さな友達の君が、みんなやったようなものだ。さていよいよ、ペガッサスを自由にしてやろうじゃないか。』
そこで彼は、その非凡の馬の頭から、魔法の馬勒をはずしてやりました。
『我がペガッサスよ、永久に、自由になれ!』と彼は叫びましたが、その調子はどことなく悲しそうでした。『お前の速さに負けないくらい自由になれ!』
しかし、ペガッサスはその頭をビレラフォンの肩に乗せて、何と言って聞かせても、飛んで行こうとはしませんでした。
『それじゃ、まあ、』ビレラフォンは天馬を撫でてやりながら言いました、『お前の好きなだけ僕の傍にいるがいい。これからすぐに、われわれは一しょに行って、アイオバティーズ王に、カイミアラを退治たことを知らせよう。』
それからビレラフォンは、そのおとなしい子供を抱きしめて、また来るからと約束して、出かけて行きました。しかし、後年に至って、その子供は天馬に乗って、ビレラフォンよりも一層高く大空を駆けって、カイミアラ退治よりも更に名誉ある仕事をなし遂げました。というのは、彼はおとなしい、やさしい子供でしたが、大きくなって、とてもえらい詩人になったからです!
[#改ページ]
禿げた頂上
――話のあとで――
ユースタス・ブライトはビレラフォンの伝説を、まるで本当に彼が翼のある馬に乗って飛ばしているかのような熱意と元気とで話した。話し終った時、聞いていた子供達の顔が真赤にほてっていたので、彼等がどれほど興味を感じていたかが分る気がして、彼は嬉しかった。みんなは眼をくるくるさせていたが、プリムロウズだけはそうでなかった。彼女の眼には本当に涙がうかんでいた。というのは、ほ
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