敢なペガッサス!』とビレラフォンは叫びました。『いま一太刀あんなのをあびせて、しゅっしゅっと鳴いている方か、吼え立てている方かを、やめさせて見せるから。』
 そしてまた彼は手綱を振りました。前と同様、斜《ななめ》に突進して、ペガッサスはまたカイミアラにむかって矢のように飛んで行きました。そしてビレラフォンは、カイミアラを掠《かす》めて行く時、二つの残った首の一つをめがけて、またさっと一太刀斬りつけました。しかし、今度は、彼もペガッサスも、最初のようにうまく逃げられませんでした。その爪の一つで、カイミアラはビレラフォンの肩先に深い掻傷《かききず》を負わせ、ほかの爪で、ペガッサスの左の翼を少し傷つけました。ビレラフォンの方では、その代りに、怪物の獅子首に致命傷を与えて、それがもうぶらりと垂れてしまって、口の中の火もほとんど消えて、ぱくぱくと濃い黒煙を吐くくらいにしてしまいました。しかし、今ではただ一つだけ残った蛇頭は、そのはげしさも、その毒も、いままでに倍して来ました。それは火を五百ヤードもある噴水のようにふき出して、しゅっしゅっと鳴く声の大きさ、はげしさ、やかましさといったら、五十マイルもはなれたアイオバティーズ王のところまで聞えて来て、王様は玉座ががたがたと動き出すほど震えたくらいでした。
『ああ、ああ! カイミアラが、きっとわしを呑みに来るのだ!』と、可哀そうな王様は思いました。
 その間に、ペガッサスはまた空中に止まって、憤然としていななきましたが、その眼からは、すきとおった水晶のような火花が、ぴかぴかと飛び出しました。カイミアラの気味の悪い赤いような火とは、なんという違いでしょう! 天馬の勇気は、全身に湧き立ちました。ビレラフォンもまた同様でした。
『お前ひどく血が出るか、不死の馬よ!』若者は自分の痛手《いたで》よりも、今まで痛さというものは味わったことのない筈の、この栄光ある動物の苦痛の方を心配して、叫びました。『この傷の仕返しとして、憎むべきカイミアラの最後に残った首を討取ってくれん!』
 そこで彼は手綱を振って、大音声《だいおんじょう》をあげて、今度は斜《ななめ》に向わずに、怪物のおそろしい真正面めがけて、天馬を進めました。その進撃はあまりにも速く、はっと思う間に、もうビレラフォンは彼の敵とがっぷりと組んでいました。
 二番目の首を落されたカイミアラは、この時までに、あまりの痛さに火がついたように苦しんで、たけり狂っていました。そして、あまり激しくころげ廻ったり、飛び上ったりするので、一体地上にいるのか、空中にいるのか分らないくらいでした。それは蛇の口をおそろしく大きくあけたので、ペガッサスは翼をひろげたまま、乗り手も何も一しょに、その喉の中へ飛び込んでしまいそうだったと言いたいくらいです。彼等が近づいて行くと、それは火の息をものすごい勢で噴き出して、ビレラフォンと馬とをすっかり火の中に包んでしまって、じりじりとペガッサスの翼を焦がし、青年の金色の巻毛の片側を焼いてしまいました。彼等は二人とも、頭から足の先まで、熱《あつ》くって閉口しました。
 しかし、そのあとで起ったことから見ると、これくらいなことは何でもなかったのです。
 ペガッサスが空中を突進して行って、百ヤード以内に近づいた時、カイミアラはぱっと跳び上って、その大きな、不格好な、毒のある、とてもいやな胴体を、可哀そうに、まともにペガッサスにぶっつけて、力一杯に彼をかかえ込んで、その蛇のような尻尾を結んだように巻いてしまいました。天馬は、山の峯よりも、雲よりも、高く、ほとんど地上が見えなくなるまで、ぐんぐん舞上りました。しかしそれでも、土に生れたその怪物は、ぐっとつかまえて放さず、光と空に生きるペガッサスにくっついて、一しょに上って行きました。その間に、ビレラフォンが振向いて見ると、カイミアラのおそろしい、すごいような顔と、鼻をつき合わさんばかりになっていたので、盾をさし上げて、やっとのことで焦げ死んだり、真二つに喰切られたりすることを免《まぬが》れることが出来ました。彼は盾の縁起《ふちご》しに、怪物のものすごい眼を、きっとにらみつけました。
 しかしカイミアラは、痛さのために気違いのようになってあばれていたので、ほかの時のように、よく身をまもっていませんでした。おそらく、結局のところ、カイミアラと闘うには、出来るだけぴったりとそれにくっついているのが一番いいようでした。一生けんめい敵にそのおそろしい鉄の爪を立てようとして、カイミアラは自分の胸をすっかり敵にさらしていました。これを見て取ったビレラフォンは、彼の剣を、そいつの残忍な心臓に、柄《つか》も通れと突き立てました。結んだようになっていた蛇のような尻尾は、すぐにほどけました。怪物はペガッサスをつかまえて
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