と糸子さんと、何か訳でもあるといふんだね」泣ながら「ハア……だから私しやどうしやうかとおもふの」うるさくて仕様なければ、どうにかしてかへさんと、きツと心に思案して「どうしなくともなんとかかとかこぢつけて、早くさがツておれと夫婦になツたらいゝぢやないか、それともおれのやうな素寒貧はいやかへ」とにツこり笑ふうつくしさ。此一言にたらされて、今の怨もどこへやら、涙をはらひてうれしげに「あなた屹度、ほんとですか」「うそなんぞいふもんか」「そんならもう安心ですが」といひつゝ柱の時計を見て「オヤもう四時ツ、ほんとににくらしい時計ですね、仕方がない、今日はマアかへりませう、おそくなツてあらはれるといけないから」「さ様さね、其方がよからう」丁の腹の中、どうか早くあらはれて、おれのきずにはならぬやう、こいつばかりさげられてくれ。

   (七)

 奥方きツとかたちを正して、面色たゞならぬ殿にむかひ「御前、さうお怒り遊してはこまりますよ、御前はまだ迷つていらツしやるから、さ様な事を仰いますが、何の兄なもので御座いますか、露と今宮はどうしてもおかしう御座いますよ」御前ひどく立腹したる様子にて「ンそれにはたし
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