く怒るごとく目じりをすこしつけあげて「さうで御座いますね、だから早く露をお下げになつたらいゝでせう」「アア今に何とかするが姫お前もあの方がお出でになつても、あんまり房雄の方にお出でないよ」おどろいて「なぜでございますの、私は別に……」「なぜでも、今が嫁入前の大事の身体だから」「エヽ」「おどろく位物のわきまへがないのかへ」
(六)
人形片手に花子は、あはたゞしく兄のゐまに入りきたり愛らしきこゑにて「兄さん、こないだのいゝ姉さんがきたよ」丁は今しもよみかけし洋書を下におきながら、顔をしかめて「こちらへお出とお言ひ……それからおツ母さんはどこへいツたの」「赤坂の叔父さんとこへ」「さう、ぢや花ちやんは遊びにいツてもいゝよ」「アア」とうれしげにいでゝゆく。やがてまもなく入りきたりし女をみれば、別人ならぬ青柳子爵の愛妾お露、いとなれ/\しげに丁の側に座をしめて「マアうれしい、今日はいゝ塩梅に皆さんお留守ですね」物うげに「アアだが母はぢツきかへるよ……お前マどうしてきたの、何か用でもあるのか」うらめしげにぢツと見て「ハアあなた此頃はなぜ御前の方へいらツしやらないの」面倒くさそうに「だツて
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