んな事は御座いませんけれど……」「ぢややつぱり脳でもわるいのだらう、後に葉山先生もいらつしやるから、猶よく見ていたゞくがいゝよ」「ハイなに大した事でも御座いませんから、今によくなりませうよ」「どうかはやく直ればいゝが……お前そんなにうつむいてゐると猶更ひどく頭痛がするよ」といひつゝ携へきたりし本をいだして「これ……これはね、此頃房雄が始めてかいた小説だとさ、一寸御らんな、あの放蕩山人が直したのだよ」といはれて糸子は顔ふりあげ、一寸表紙を見て「まよひの雲つてへ名ですか……オヤこの字は兄様ぢや御座いませんね」「アア今宮さんだよ、上代様で中々お上手ね」「おつ母様はもう御らん遊したの」「アアよんだの、一寸面白かつたよ……しかしねヱ、それはともかく、どうもこまるよ」いぶかしさうに「ヱヽ」「あの今宮さんがお出になると、とかく露がそは/\して……向はあゝいふ名高いほうだから大丈夫だらうが、どうも外の女中どもが二人の事をかれこれいふから……さうかと言つてお父様までが、此頃ぢや折々今宮さんとお話など遊すもんだから其都度お茶をだしたり何かをする露を、かれこれいはれもせず、それにあの方はいゝ方には相違ないが
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