面に顕わした。あらゆる称賛、あらゆる栄誉を一身に担うというて、これ程女の浅薄な心を満足させるものがまたとあろうか。
 彼女は翌朝四時頃ようやく舞踏室を出た。夫は二、三の紳士と寂しい玄関の一室に眠《ね》ながら待っていた。その紳士の妻君達も彼女と同じように快楽に耽けっていたのである。
 夫は家から持ってきた外套を彼女の背中にかけてやった。それが夜会の服装と相対して如何にも見窄しくみえたのである。彼女は温かい毛皮の外套に身を纏《つつ》んだ婦人に見られるのを嫌うて、それを着なかった。
 ロイゼルは妻を止めて、
「オイ、それでは風邪をひく、今馬車を呼んでくるからちょっと待っておいで」
 親切な夫の言葉には少しも耳をかさず、彼女はスタスタ[#「スタスタ」に傍点]と階段を下りて戸外へ出た。ロイゼルは仕方なく後について、間もなく二人は一諸になって馬車を探し始めた。ようやく一台見つけたので遠くからその馬車を呼んだ。二人は寒いので震えながらセイヌを側うて下って行った。辛うじて彼らは一台の馬車に追いついた。その馬車というのは二人乗りのノクタンブランで、以前にはよく白昼でも巴里の街中を歩いたものだが、今では夜
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