しています。恋しています。あなたを死ぬほど恋しています。もし僕をだましでもしたら、いいですか、僕を棄ててほかの男とそういうことになるようなことでもあったら、僕はお父さんのしようなことをやりますよ――」
 そして、少年はまた、私が思わずぞッとしたほど深刻な声で、こうつけ足して云うのでした。
「ご存じでしょうね、お父さんがどんなことをしたか」
 私がおどおどしていると、少年はやがて起《た》ち上って、私よりも背丈が低かったので、爪さきで背伸びをするようにして、私の耳もとに口を寄せると、私の名、それも呼名を、優しい、親しげな、美しい声で「ジュヌヴィエーヴ」と囁くので、私は水でも浴せられたように、背筋がぞうッとしました。
 私は口ごもりながら云ったのです。
「帰りましょう。さ、帰りましょう!」
 すると少年はもうなんいも云わずに、私のあとについて来ました。が、私たちが入口の段々をあがろうとすると、私を呼びとめて、
「よござんすか、僕を棄てたら、自殺をしますよ」
 私も、その時になって、冗談がちと過ぎていたことにようやく気がつきましたので、それからは少し慎しむようにしました。ある日、少年はそのこと
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