えって誇りとしていたのです。
 その少年はこうした艶ッぽい話や怖しい話を聞くと夢中になってしまいました。そして時折り手をたたいたりして、こんなことを幾度も云うのでした。
「僕にだって出来ますよ。その人たちの誰にも負けずに、僕にだって恋をすることが出来ますよ」
 そうしてその子は私に云い寄りました。ごく内気に、優しく優しく云い寄ったのでした。それが余り滑稽だったので、皆な笑ってしまいました。それからと云うもの、私は毎朝その子が摘んだ花を貰いました。また、毎晩、その子は部屋へあがって行く前に私の手に接吻して、こう囁くのでした。
「僕はあなたを愛しています!」
 私が悪かったのです、ほんとうに私が悪かったのです。いまだに私はそれについては始終後悔の涙にくれるのです。私は生涯その罪の贖《つぐな》いをして来ました。こうして老嬢をとおしております。いいえ、老嬢と云うよりも、婚約をしたッきりの寡婦、あの少年の寡婦として通して来たと申したほうが好いのでしょう。私はその少年のあどけない愛情を弄んだのです。それを煽り立てさえいたしました。一人前の男にたいするように、媚を見せたり、水を向けたり、愛撫をしたりしました。それにもかかわらず、私は不実だったのです。私はあの子を気狂のように逆《のぼ》せあがらせてしまいました。私にしてみれば、それは一つの遊び[#「遊び」に傍点]だったのです。また、それは、あの子の母にとっても私の母にとっても、愉しい気晴しだったのです。何にせよ、その子はまだ十二なのですからね。考えてもみて下さい。そんな年端もゆかぬ子供の愛をまにうける者がどこにあるでしょう! 私はその子が満足するだけ接吻をしてやりました。優しい手紙も書きました。その手紙は母親たちも読んでいたのです。その子は火のような手紙を書いて返事をよこしました。手紙はいまだに蔵《しま》ってあります。その子はもう一人前の男のつもりでいたので、自分たちの仲は誰も知らないものだとばッかり思っていたのでした。私たちはこの少年のからだをサンテーズ家の血が流れているのだということを忘れていたのです!
 かれこれ一年の間、こういうことが続きました。ある晩のことでした、少年は庭で出し抜けに私の膝のうえに倒れかかって来て、狂気のような熱情をこめて、私の着物のすそ[#「すそ」に傍点]接吻をしながら、こう云うのです。
「僕はあなたを愛
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