殺人迷路
(連作探偵小説第六回)
橋本五郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)予《あらかじ》め

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)宮部京子|殺《ごろし》
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   見えざる敵

 新橋駅で雑誌記者の津村と別れた探偵作家の星田は、そこから自動車を拾って一先ず自分の宅へ引上げてきた。
 捕捉することの出来ない不安は、次第にじりじりと胸元へこみ上げてくる。つい、先程まで冗談だとばかり思っていた事が、急に恐ろしい現実となって襲いかかってきたのだ。しかも、この忌まわしい、好もしからざる事件に於て、自分はまんまと犯人の役割を背負込まされているのだ。
 鎌倉からの帰りがけの電車の中で、自分の指紋を見せられた瞬間から、津村は急に、不機嫌に、黙りがちになってきたではないか、あの男でさえが、そろそろ自分を疑い出したのではあるまいか。
 そうだ。
 新橋駅で別れるときも、自分をみるあの男の眼附きは確かに変っていた。何んとなく、そわそわとして、疑わしげで、自分を避けるような態度さえ見せていた。
 無理もない。自分には、自分が犯人でないという証拠は全く持合せて
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