って慰めていいか、私には、その正体を見極めることが出来なかった。
「妙な広告をしたじゃあないか」
私は早速訊ねて見た。
「うむ」
とそこで野々村君は、急に憂鬱な表情になって、やがて静かに、該広告をするようになったいんねんを話し始めたのである。
聞けば聞く程痛ましい話だ。私は、友がかく有名になった以前の、その奇怪な哀れな物語に引き込まれて、暫《しばら》くは、私自身の現在をも忘れていた程だった。
でその話と云うのは、いったい芸術家と呼ばれる者の修行時代は、他から見るように呑気なものではなく、惨苦そのもののような、だから、時にはやり切れないで(勿論それには色々の意味があるが)あたら華かな青春を、猫いらずや噴火口に散らす者もあるのだが、その○○○○○○○○○○○○頃は、文字通りに喰うや喰わずの、カンヴァスも無ければチューブも持たない、至って風雅な生活をしていたのだが、どうかしたはずみに、その喰うや喰わずの生活も出来なくなって終《しまい》にまる一日、何も口にしないような日が続いた、そのある日のこと……。
2
風はないが、寒い日の暮方だった。
彼はさる荒れ寺の、半ば朽ち歪
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