は「今日こそは」という期待をもって毎日の新聞を取上げた、けれども週また週が、この奇怪《グロテスク》な秘密の幕を切って落すことなしに空しく過ぎて行った。六月の午後の真昼間だというに、そして所はといえば、英国きっての人口の稠密《ちょうみつ》な地方だというに一列車が乗客を載せたまま、熟練な化学実験の大家《たいか》が空々《くうくう》たる瓦斯《ガス》にでも変化してしまったかのように、影も形も見えなくなったのだ。
実際、当時の諸新聞に掲げられた種々様々な推測の中《うち》には、この事件の背後には、何か理外の理ともいうべき超自然的な魔力が働いたのだと論ずるものすらあったほどだ。けれども、「タイムス」紙上に掲げられた、当時かなりに有名な寄稿家として知られていたある論客の署名の下《もと》に論ぜられた一文は、読者の注意を惹くに充分だった。それは批評的な半ば科学的な方法で事件を論じようと試みたものだった。記者は下《しも》にその主要部分を抄出してみたい。
『………該列車がケニヨン駅を通過したることは確かなる事実なり。しかしてまた、バートン・モスに到着せざりしことも確かなる事実なり。列車が七個所の引込線中の一に
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