に始末した。継ぎ足しの軌条《レール》は剥取って遠くへ運び去った。そこで一同はどさくさせぬように、しかし一刻の猶予もなく、国外へ逃げ延びる仕度をした。大部分は巴里《パリー》を指して、例の英国人はマンチェスターへ、そしてマックファースン[#「マックファースン」は底本では「マックファーン」]はサザムプトンへ、そこから亜米利加《アメリカ》へ移住するために。
『諸君は、ゴメズが窓の外へ書類袋を投げ出したというあの一事を覚えておるだろう。自分がそれを拾って巴里《パリー》の巨頭等の手に渡したことはもちろんの話だ。
『けれども我が閣下等よ、閣下等は余があの袋の中から一二枚の小形の書類を、あの事件の記念として抜取っておいたことを知るならば、いかなる感じを起すだろうか。自分は元よりそれらの書類を公表するつもりはない。しかし、そこが問題である、現在我が友の助けを求めつつ自分のために、我が友が敢てその挙に出《い》でない場合、自分は公表の外《ほか》にいかなる手段に出ることが出来るだろう? 閣下等よ、閣下等はこのヘルバート・ドゥ・レルナークが、味方として頼むべく、敵として恐るべき男子であることを信じてもよいはずだ。閣下等自身のため、たとえそれがこの自分のためでなくとも、一時《いっとき》をも失わぬように、――閣下よ、そして――大将よ、そして――男爵よ。(閣下等は上のブランクを自らうずめるがよい)
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『追――以上の陳述を読み直した時、自分はただ一つの言い洩しのあったことを発見する。それは不幸なる人マックファースンに関してである。彼は愚かにも彼の妻宛に手紙を出して、紐育《ニューヨーク》で会う約束をしたのだ。彼のような奴が、自己の大秘密を女に打明けかねまいかどうか、全く知れたものではない。彼すでに妻に手紙を送ったことによって、我々の堅い誓いを破っている以上、我々は彼を信用することが出来なくなった。そこで我々は彼をして、妻が亜米利加《アメリカ》へやって来ても決して会わないことを誓うべく余儀なくさせるため、断乎として迫った次第だ。』(完)
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底本:「「新青年」復刻版 大正10年(第2巻)合本2」本の友社
2001(平成13)年1月10日復刻版第1刷発行
初出:「新青年 第二卷 第四號」博文館
1921(大正10)年3月13日印刷納本
※「旧
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