引受け、片時たりとも注意おさおさ怠りないのだ。我々の睨んだところでは、主人は彼を自分の顧問として何ごとも相談しているらしく見えた。であるからカラタール氏一人を片づけたところで、このゴメズを片づけない限り、それは全くの徒労というものだ。我々にとっては、彼等を同じ運命の坑《あな》に放り込んでしまうことが必要なのだ。そしてその目的に対する我々の計画は、彼等が果して別仕立列車を請求することになったので、非常に好都合に捗《はかど》ったのだ。列車に乗込むべき三名の乗務員のうち、二名まで我々の買収した一味の仲間なのだから。生涯を安楽に暮せるだけの大金を握らせて。
『自分が絶好の英国人を一味に加えたことは前にも言った通りだ。彼は赫々《かくかく》たる未来ある有為の人物だったが、その後咽喉病に犯されたために夭死した。その男がリヴァプール駅で一切の手筈をやった。余は一足先にケニヨンまで行っていて、駅前の旅店に根拠を構え、暗号の飛来してくるのを待っていた。列車の配車が出来ると同時に、彼は余の手許へ打電して、すぐに手抜かりなく準備をととのえろと知らせて来た。彼は自ら、ホレース・ムーアという偽名をなのって、駅長に、至急|倫敦《ロンドン》行きの別仕立列車を仕立ててもらいたいと申出でた。それは表向きで、心中ではカラタール氏と同車が出来るだろうと期待していたのだ。そうなれば、何かにつけて便利だろうと考えたから――例えばもし、我々の大隠謀《だいいんぼう》が失敗に帰した場合彼等両名を射殺《いころ》した上、書類を奪い取るのが彼の役になっていたのだから。カラタール氏は、しかし、決して気をゆるさなかった。そして他の旅客を相客に持つことを絶対に拒絶した。そこで我が腹心は停車場を去った――というのは実は見せかけで、あらためて他の入口から歩廊《プラットホーム》に忍び入り、歩廊《プラットホーム》から一番遠くの方に位置していた車掌乗用車の中《うち》に姿を匿《かく》した、そして車掌のマックファースンと同乗して出発したのだ。
『その間にこの自分がどんな行動をとっただろうか、それは諸君の知りたく思うところであろう。しかし、万事はもうすでに二三日前から着々準備されていたのだ、ただ最後の仕上げを要するばかりになっていたのだ、我々が択んだ引込線は、以前はもちろん本線に聯結していたのだが、その後引離されたままの状態になっていた。我々
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