のは決して分らないということを御承知でございましょうね」
「不届きな奴め! そんなことを企みおったのかッ」
「そこでジョン・ストレーカがなぜ馬を荒地《あれち》へつれ出したかは説明がつきます。馬のような敏感な動物はナイフの先をちくりと感じただけでも烈しく騒ぎたてて、どんなによく眠っている者をでも起してしまいます。だから、その手術は屋外の広い場所ですることが、絶対に必要だったのです」
「私が盲目《めくら》だった。だから、蝋燭を持っていたり、マッチをすったりしたんですな」
「無論そうです。ところでポケットから出た品物を調べてみると、私は犯行の方法を発見したばかりでなく、幸いにしてその動機をも知ることが出来ました。大佐、あなたは世間の広い方ですが、他人の勘定書を持ってる者がどこにありましょう? 普通の人間ならば自分の払いを始末するだけで十分のはずです。私はあの書附を見てストレーカは二重生活をやって、第二の家をどこかに持っているのだと断定しました。しかも書附の内容を見れば、それには婦人の関係していることが知れます。非常に贅沢な好みの婦人です。あなたが雇人にいくら寛大であり、いくら酬《むく》いられるからといって、彼等が自分の女に二十ギンの散歩服を買ってやれる身分だとは考えられますまい。私はストレーカの細君にそれとなく服のことを訊ねてみますと、その服は果して細君の買ってもらったものではないことが分りました。この上はその帽飾店のところを控えて帰って、ストレーカの写真を持って店へ行って訊ねてみれば、事件の秘密はすっかりさらけ出せるだろうと思います。
 そのあとは極めて簡単です。ストレーカは馬をつれ出して、燈火《ともしび》をつけても人の眼につかぬようにあの凹みへ降りて行きました。その前に、シムソンは逃げる時、襟飾《ネクタイ》を落して逃げましたが、ストレーカは何か考えがあってそれを拾っておきました。おそらくそれで馬の脚でもしばるつもりだったのでしょう。で、凹みの底へ降りて行くとすぐに、馬の後へ廻ってマッチをすりました。ところが馬は急にマッチの光に驚いて、同時に動物の不思議な本能で、自分の身に何か危険が企まれていることを感じ、ぱっと跳ね上りました。その拍子にストレーカは額を蹴られて倒れたのです。雨は降っていましたが、仕事が細かいためストレーカはその前に外套を脱いでおきました。そして、倒れる
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