けです。阿片は厩舎に残ってるハンタの分として、別の皿へとり分けられてから入れたものです。同じものを食べた他の人達に、異状のなかったのでも知れます。では、女中に気づかれないようにその皿に近附いたのは夫婦の中《うち》果してどっちでしょうか?
一つの正しい結論は、必然第二の結論を暗示するものです。この問題を解く前に私は、あの晩犬が騒がなかったという重大な事実に想到しました。シムソン事件のおかげで私は厩舎に犬の飼ってあることを知りましたが、夜中に誰かが厩舎へ入って馬をつれ出したのに犬が吠えなかった、少くとも二階に寝ていた二人の若者の眼をさますほどには吠えなかったという事実に考え至りました。これは馬をつれ出した者が、犬のよく知ってる人物であるということを示しています。
そこで私は真夜中に厩舎へ行って白銀をつれ出したのはジョン・ストレーカであると断じました。断じてよいと思いました。しからばそれは何んのためであったか? 無論不正の目的のためであることはいうまでもありません。でなければ何んで薬で厩番を眠らせたりしましょう。しかも、不正な目的とまでは分っても、それが果してどんなことであるか私には分りません。調馬師が自分の預かっている馬を故意に痛めて出場不可能ならしめ、それによってうまうまと大金を得る例はこれまでもいくらもあったことです。時には騎手を手に入れて八百長をやらせたり、また時には、もっと確実で、分りにくい方法を執ることもありますが、この場合は果してどうでしょう? ストレーカのポケットにあった品物を見れば、何かこの間の消息を知る手懸りがありそうなものだと私は思いました。
その品物は果して役に立ちました。お忘れもありますまいが、ストレーカは不思議なナイフを握って倒れていました。あれは決して普通の人間の持つナイフではありません。ワトソン君も申した通り、あれは極めて緻密な外科手術に使うメスの一種です。しかも、まさしくあの晩は緻密な手術をするため用意されていたものなんです。大佐、あなたの競馬に関する広い経験をもってすれば、馬の膝膕部《ひざかがみ》の腱に、外面に何んの痕跡をも残さず皮下手術的にちょっと傷をつけることは容易であって、しかもそれをやられた馬は軽い跛《びっこ》を引き出すけれど、調馬中に筋でも違《たが》えたかそれとも軽いリウマチスに罹ったかということになって、不正の行われた
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