りだ」
 私は云った。
「君にそう説明されてみると、僕は実際前の時と同様、驚かされるね」
「ワトソン君、それは表面だけのことだよ。もし君がこの間、君の注意深い所を見せてくれなかったら、僕はおそらく君の注意の動きなんかに目をつけやしなかったろう。――それはそうと、夕方になったら、少し風が出て来たらしいね。どうかね、ロンドン中をぶらつくのは?」
 私はその狭い部屋に疲れていたので、喜んでそれに同意した。私たちは三時間ばかり、一しょに、フリート・ストリートや川の岸などを、さまざまな生活相を眺めながらぶらついて廻った。ホームズの細かい鋭い観察力を持った、そしてまた推理の深い力を持った独特な話は、私を楽ませ少しも飽きさせなかった。そうして私たちがベーカー街に帰って来たのは十時すぎだった。――と、入口のそとに一台の一頭だての箱馬車がとまっていた。
「ふうん、――分かった」
 と、ホームズは云った。
「医者、――内科も外科もやる開業医の馬車らしいな。ちょっと調べてみたまえ。――きっと何か相談にやって来たに違いないよ。いい所へ帰って来たね」
 私はホームズがそう推定したことについて、話し合った。そして
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