、私は診察室に這入って来る彼等親子を見てびっくりしたのです。しかも時間まで、昨日と同じ時刻だったではありませんか。
「どうも昨日は、突然にだまって帰ってしまって申わけございません」
 と、その患者は云いわけを申しました。
「いいえ、どうしまして。けれどちょっと驚きましたよ」
 私は答えました。
「いえ、実はそのこう云うわけなんでございますよ」
 患者は話し出しました。
「私はいつも例の発作が起きた後は、心に雲がかかったようになって、その前にあったことをすっかり忘れちまうのです。だものですから昨日も発作からさめてみますと、見たことのない変な部屋におりますでしょう。で、これは怪しいぞと思いながら、立ち上って、ふらふらと表の通《とおり》に出ていってしまったんでございます。ちょうど先生が部屋にお見えにならない最中に……」
「私はまた……」
 と、彼の息子は話をつぐのでした。
「見ていると親じが待合室の入口からフラフラと這入って来るんでしょう。ですから、これはてっきりもう診察が終っちまったことだろうと思いましてね、――家へ帰って親じから事情をいろいろきいてみるまで、ちっとも気がつかずにいたんです
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