日をのばさなくてはならないようにしてしまったのである。――けれどもホームズには田舎も海も少しも魅力を持ってはいなかった。彼は百万の大衆の真ただ中に寝ころんで、空想と推理の糸を自由自在にひろげたりたどったりして、いろいろな未解決な問題に暗示を与えたりすることのほうを愛していた。自然の鑑賞力、そう云うものは彼のたくさんの才能の中にも座をしめることは出来なかったのだ。だから彼が田舎へ行くと云うことも、結局は都会の犯罪をさがすため、田舎の彼の兄弟の跡をつけて行くと云うような場合にすぎないのであった。
私は、ホームズがしゃべりすぎていると云うことが分かったので、無味乾燥な新聞を側《かたわ》らにほうりなげて、椅子にうずまって黙想に耽った。と、ふいにホームズの声が、私の意識を呼びさました。
「君の云う通りだよ、ワトソン」
彼は云った。
「それはこの問題を解決するのには、ちと無理な方法のようだね」
「最も不自然な方法だよ」
私は叫んだ。が、その時、私は、彼が私の心の一番奥にあるものをちゃんと感じていると云うことに気がついたので、私は椅子の上に起き直り、思わず驚きの目を見張って彼を見詰めた。
「ど
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