いと思う。
 それ、船長が明かり窓を降りて来るのが聞こえるぞ。それから自分の部屋にはいって錠《じょう》をかけたな。これはまさしく、彼の心がまだ解けない証拠なのだ。それでは、どれ、ペピス爺さんがいつも口癖に言うように、寝るとしようかな。蝋燭ももう燃え倒れようとしている。それに給仕《スチュワード》も寝てしまったから、もう一本蝋燭にありつく望みもないからな――。

       二

 九月十二日、静穏なる好天気。船は依然おなじ位置に在り。すべて風は南西より吹く。但《ただ》し極めて微弱なり。船長は機嫌を直して、朝食の前に私にむかって昨日の失礼を詫《わ》びた。――しかし彼は今なお少しく放心の態《てい》である。その眼にはかの粗暴の色が残っている。これはスコットランドでは「死《デス》」を意味するものである。――少なくともわが機関長は私にむかってそう語った。機関長はわが船員中のケルト人のあいだには、前兆を予言する人として相当の声価を有しているのである。
 冷静な、実際的なこの人種に対して、迷信がかくのごとき勢力を有していたのは、実に不思議である。もし私がみずからそれを観たのでなかったらば、その迷信が
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