も大股に急ぎ足で甲板を歩いたかと思うと、また直ぐに降りて来る。わたしはその都度《つど》について行った。彼の顔の上に、なんとなく不安な影がただよっているのが見えたからである。彼は私のこの懸念《けねん》をさとったらしく、わたしを安心させようとして殊更《ことさら》に快活をよそおい、ほんのつまらない冗談にも、わざとからからと笑ったりしてみせた。
 夜食の後、彼は再び船尾の高甲板へ登った。夜は暗く、円材にあたる風のひゅうひゅうという陰気な音を除いては、まったく静寂であった。密雲が北西の方から押し寄せて来て、その雲の投げたあらい触角《しょっかく》が、月の面を横ぎって流れていた。月はこの雲間を透して時どきに照るのである。船長は足早に往ったり来たりしていたが、私がまだついて来ているのを見て、彼はわたしのそばへ来て、下へ行ったらいいだろうということを、謎かけるように言うのであった。――それは言うまでもなく、甲板にとどまっていようとする私の決心をますます強めるものであった。
 この後、彼は私の存在を忘れたように、黙って船尾の手摺りによりかかって、一部分は暗く、一部分は月の光りにおぼろに輝いている大氷原のあ
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