しまって、その代金は鯨油の代金が船員のあいだに分配されるように、平等にかれらに分配してやってくれたまえ。時計は、この航海のほんの記念として、君が取っておいてくれ。もちろん、これは唯《ただ》あらかじめ用心しておくというに過ぎないが、わしはこれをいつか君に話そうと思って、機会を待っていたのだ。もし何かの必要のある場合には、わしは君の厄介《やっかい》になるだろうと思うがね」
「まったくそうです」と、私は答えた。「船長さんがこういう手段をとられるからには、わたしもまた……」
「君は……君は……」と、彼はさえぎった。「君は大丈夫だ。いったい君になんの関係があろうか。わしは短気なことを言ったわけではない。ようやく一人前になったばかりの若い人が、〈死〉などということについて考えているのを、聞いているのは忌《いや》だ。さあ、船室のなかのくだらない話はもうやめにして、甲板へ行って新鮮の気を吸おうではないか。わしもそうして元気をつけよう」
 この会話について考えれば考えるほど、私はますます忌な心持ちになって来た。あらゆる危険を逃がれ得られそうな時に、なぜ遺言などをする必要があるのであろう。彼の気まぐれには
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