わたしは舷檣に倚《よ》りかかりながら、周囲にひろがっている大氷原に、今しも沈もうとしている太陽の投げる澄明《ちょうめい》な光りを心から感歎して眺めていると、その夢幻の状態から、わたしは間近《まぢか》にきこえる嗄《しゃが》れ声のために突然われにかえった。それと同時に、船長があたりをきょろきょろ見廻しながら降りて来て、わたしのすぐ側に立っているのを見いだした。
彼は恐れと驚きと、何か喜びの近づいて来るらしい感情とが相争っているような表情で、氷の上を見まもっていた。寒いにもかかわらず、大きい汗のしずくがその額に流れていて、彼が恐ろしく興奮していることが明らかにわかった。その手足は癲癇《てんかん》の発作を今にも起こそうとしている人のように、ぴりぴりと引きつってきた。その口のあたりの相貌はみにくくゆがんで、固くなっていた。
「見たまえ!」と、彼はわたしの手首をとらえて、あえぎながら言った。
しかし、眼は依然として遠い氷の上にそそぎ、頭は幻影の野を横切って動く何物かを追うかのように、おもむろに地平のあなたに向かって動いていた。
「見たまえ! それ、あすこに人が! 氷丘のあいだに! 今、あっちの
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