たしはかつてこのことを船長に話したところ、彼もまた非常にまじめにこの問題をとったには、私もすくなからず驚かされた。そうして、彼は実際わたしの言ったことについて、著るしく心を掻き乱されたようであった。わたしは、彼が少なくともかかる妄想に対しては超然としているだろうと、当然考えていたからである。
 迷信という問題に就いて、かくのごとく論究した結果、わたしは二等運転士のメースン氏がゆうべ幽霊を見たということ――否《いな》、少なくとも彼自身は見たと言っている事実を知った。何ヵ月もの間、言いふるした、熊とか鯨とかいう、いつも変わらぬ極まり文句のあとで、なにか新らしい会話の種があるのは、まったく気分を新たにするものである。メースンは、この船は何かに取り憑《つ》かれているのだから、もし、どこかほかに行くところさえあれば、一日もこの船などにとどまってはいないのだが、と言っている。
 実際、あの奴《やっこ》さん、ほんとうに怖気《おじけ》がついているのである。そこで、私は今朝あいつを落ち着かせるために、クロラルと臭素カリを少々|服《の》ませてやった。わたしが彼にむかって、おとといの晩、君は特別の望遠鏡を持
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