ある。時あたかも季節《シーズン》の終わりで、長い夜が再びあらわれ始めて来た。けさ、前檣下桁《フォア・ヤード》の真上にまたまた星を見た。これは五月の初め以来最初のことである。
 船員ちゅうには著《いちじ》るしく不満の色がみなぎっている。かれらの多くは鯡《にしん》の漁猟期に間に合うように帰国したいと、しきりに望んでいるのである。この漁猟期には、スコットランドの海岸地方では、労働賃金が高率を唱えるを例とする。しかし、かれらはその不満をただ不機嫌な容貌《ようぼう》と、恐ろしい見幕《けんまく》とで表わすばかりである。
 その日の午後になって、かれら船員は代理人を出して船長に苦情を申し立てようとしているということを二等運転士から聞いたが、船長がそれを受け容れるかどうかは甚《はなは》だ疑わしい。彼は非常に獰猛《どうもう》な性質であり、また彼の権限を犯すようなことに対しては、すこぶる敏感をもっているからである。夕食のおわったあとで、わたしはこの問題について船長に何か少し言ってみようと思っている。従来彼は他の船員に対していきどおっているような時でも、わたしにだけはいつも寛大な態度を取っていた。
 スピッ
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