去られてしまうと思ったからです。このことだけは私は、とても堪え切れませんでした。例えば彼の女は、私を愛してはくれなくっても、せめて彼の女の美しい姿を、私の家のあたりに見、彼の女の声をきくことが、私にとっては、絶大のことでした。」[#「」」は底本では欠落]
「なるほど」
私は云った。
「君はそれを愛と呼んでいるが、しかしカラザース君、それは利己主義と云うものだよ」
「いやそれは結局、一致するものかもしれませんがしかし、とにかく私は、彼の女を去らせることは出来ませんでした。その上に周囲はああした連中ですからね。彼の女には誰か、側《そば》に居てよく見てやるとよいのだがなと思いましたが、その時私は海底電信を受け取りましたので、彼等は策動を始めようとしていることを知ったのでした」
「どんな電信だね?」
カラザースはポケットから、海底電信を取り出した。
「これです」
彼は云った。それは短い簡明なものであった。
[#ここから2字下げ]
『あの老人は死んだ』
[#ここで字下げ終わり]
「ふうむ!」
ホームズは云った。
「もう大体の見当はついたが、――またこの電信でどうしようと云うことも、まあ想
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