顔がよく見えない程度に離れておりますので、よくは見ることが出来ませんでしたが、いずれ私の知らない者だろうと思われますの。彼は黒い着物を着て、地衣《きれ》の帽子をかぶっていました。私の目にはっきりと残っているものは、ただその灰黒色《かいこくしょく》の髭だけでございます。今日は私は、決して怖ろしくはありませんでしたが、むしろ好奇心にかられて、一たいどんな者か、そして何のためにこんなことをするのかを確めようと心をきめて、自転車の速力をゆるめましたら、やはり向うでも、速力を落すのでございます。それで私は遂に車を止めましたら、やはり向うでも止めました。それで今度はうまく瞞しこんでやろうと思って、ちょうど道はそこで鋭く曲りますので、私は全速力を出して、その角を曲って、急に車を止めて、その角のところに待ち伏せしましたの。その者はやはり全速力で追っかけて来て、その角の前を、うまく通りすぎるだろうと思いましたら、やはりその男は追っかけて来ません。それで私はすぐに引き返して、その角から後の方を見ましたら、そこからは一|哩《まいる》くらいの間は、見通しが出来るのでしたが、もうその男の姿は見えませんでした。そ
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