日にまた、我々の依頼者から、手紙が来た。
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ホームズ先生、私がカラザースさまのところから、お暇をいただいて、帰ってしまうとおききになりましても、決してお驚きなさいませぬように、――(と彼の女は申します)あんなに高い月給でも、やはり私の現在の位置の不愉快さは、埋め合せてはくれませぬ。土曜日に私はロンドンに帰り、もうこっちには来ないつもりでございます。カラザースさまは、馬車をお買いになりましたので、あの淋しい道の危険は、たとえば御座いましたものにしろ、今はもうそれも何でもないことになってしまいました。
私がこちらを去ることになりました理由としては、ただカラザースさまとの間が、緊迫して来たためばかりではなく、その他にもう一つ、あのいやなウードレーが、また出て来たからでございます。あの方は素々《もともと》から、凄い容子をしていますが、今度はまたもっと怖ろしい形相をしているように思われます。それに何か出来ごとでもあったのか、大変傷がついております。私は窓の外にあの人を見かけたのですが、しかし逢わずにすまされたのは、何よりの幸福でございました。何かカラザースさまと、大変長いこと、話していたようでしたが、後でカラザースさまは、ひどく昂奮していらっしゃいました。ウードレーはきっと、この近所に居るに相違ございませぬ。と申すのは、昨夜はこちらには宿《とま》りませんでしたし、それに今朝は私は、あの人が灌木の中を忍び歩いているのを見止めたのでございます。やがてはあの野蛮な怖ろしい野獣が、檻を出てのそのそとやって来るのでございましょう、――もう私は考えただけでも、身振いをするように怖ろしゅうございますわ。あのカラザースさまでも、どうしてあんな気味の悪い動物にちょっとでも御我慢のお出来になるはずがございましょう。しかししかし、もう私の煩累《わずらい》は、この土曜日で終りでございますわ。
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「ははあ、ワトソン君、――」
ホームズは慎重な調子で云った。
「これはあの娘さんの周囲には、何か深いたくらみがめぐらされているよ。あの娘さんの最後の帰り路を、無事に護ってやらなければならない。ワトソン君、今度の土曜日の朝は、一つ一緒に出かけて行って、この奇妙な、不得要領《ふとくようりょう》な事件を、見事に結末をつけてしまおうじゃないかね?」
私は正直のところ
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