ーリントンの森の中に、隠れていてごらん。そうしたらいずれ君は事実を目撃するだろうが、その時君の独断専行で、善処してみるさ。それから廃院の住人たちを調べて来てくれること、――これだけをやって来てもらえば、大《おおい》に助かるんだがね。そしてワトソン君、――あとはもうこの問題の解決の、牢固《ろうこ》たる足がかりを得るまでは、何にも云わないことにするよ」
私たちは、あの娘さんから、月曜日の午前九時五十分の汽車で、ウォーターローの停車場を発って行くときかされていたので、私は早く出かけて、午前九時十三分の汽車に乗った。
ファーナムの停車場に着いてからは、私は別に迷いもしないで、すぐにチァーリントンの森に行くことが出来た。それから例の娘さんの、受難の地も決して見紛うようなところではなかった。道は広い荒原を通っていて、一方には荒野原、他方には巨木の林立した、公園を取り囲んだ、水松《いちい》の生籬《いけがき》のあるところ、――そこには苔むした石でたたまれ、両側には紋章のついた柱の立っている正門があった。しかしこの車道の外《ほか》に、生籬に破れたところがあって、そこからも小径が通っているのだと云うことは、種々の点から私は気がついた。建物は道路から見えたが、その周囲の様子から考えると、だいぶ荒廃している感じであった。
荒蕪地《こうぶち》の方は、ハリエニシダの花が満開中で、四月の太陽を受けて、黄金色に燦爛《さんらん》としていた。私はその一つの茂みのかげの、道路の両端と、廃院の門とがよく見える位置に身をひそめた。私が道路から横に入った時は、道路には何も見えなかったが、今は私が来た方向とは反対の方から、一人の自転車に乗った者の姿が現われた。その者は灰黒色の着物を着て、黒い髭を蓄えているように思われたが、チァーリントンの区域内に入って来ると、その者は自転車から降りて、生籬の間隙から忍び込んで、その影は見えなくなってしまった。
それから十五分ばかり経ったら、また別の自転車乗りの姿が現われた。今度のは例の娘さんが、停車場から来たのであった。チァーリントンの生籬のところまで来ると、彼の女は周囲を振返って見ているのが見えた。それからちょっとおくれて、生籬の間から、先の者が忍び出て、自転車に乗って彼の女を追っかけ始めたのであった。一望開豁《いちぼうかいかつ》な荒野の中に、一方は自転車の上に、すっ
前へ
次へ
全26ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング