ったのは、つい先月の三日のことである。
私はシャーロック・ホームズと親友であったと云うことから、自然犯罪と云うものに対して、特殊な興味を持つようになり、そして彼の失踪後も、世間に現われた種々の問題には、注意深く目を向けるようになったことは、諸君にも想像されることであろう、――私は一再ならず、ただ自分自身の満足のために、こうした問題の解決に、彼一流の解決法を適用してみた。しかしもちろん決して、彼のような素晴らしい結果は得られなかったが、――
ともあれ、――このロナルド・アデイアの事件だけは、私にとっては全く何物にも比較されない、大悲劇であった。私は予審調書を読んで、この事件は何者かあるいは、数人の謀殺であると知った時は、シャーロック・ホームズの死は、社会にとってはどんなに大きな損失であるかと云うことを、以前にもましてしみじみと痛感させられたのであった。私はこの事件にこそ、彼の敏腕に俟《ま》つものが、多々あると確信した。大に警察の探査を補助し得たことはもちろん、更にあるいは、この欧羅巴《ヨーロッパ》最初の犯罪取扱業者の、精錬された観察と、周到な活動は、警察力以上もの偉力を発揮したかもしれなかった。私はこの事件に、一日一ぱい心身を傾倒して考えてみたが、しかし結局、何等の首肯される解釈も、発見することは出来なかった。このもう旧聞である、物語を繰返すことは、あるいは興味索然とするかもしれないがしかし審理の結果得られた事実を基《もとい》として、ここに概括してみようと思うのである。
ロナルド・アデイアは、当時濠洲殖民地の、一知事であった、メイノース伯爵の次男であった。そしてアデイアの母は、白内障《そこひ》の手術を受けるために帰国して、息子のロナルドと、娘のヒルダと一緒に、レーヌ公園の第四百二十七番に住んでいた。この青年ロナルド・アデイアは、貴族階級の中に往来し、見受けるところ、別に敵と云うようなものもなく、また取り立てて、不徳義であると云ったようなこともないようであった。彼はカーステイアスの、エディス・ウードレー嬢と婚約の間柄であったのを、つい数ヶ月前に破棄となったのであったが、しかしこれも両方の和解の上にやったことであって、別に深い意趣をのこしたと思われるようなことも無いことであった。その他彼の私生活を見れば、それはごく狭い通俗な範囲であった。この青年は元来、性格もごく静
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