がみついて、猛烈な力で引き戻しました。
「ねえジャック、お願いだからそんなことしないでちょうだい」
彼女は叫ぶように云うのでした。
「その代り、いつかはきっと、何もかもみんなお話しするわ。私、誓ってよ。けれども何でもないのよ。――でも、今、この家《うち》の中へ這入って行くと不幸が起きて来るの」
私は彼女を振り放そうとしましたが、彼女はまるで気違いのように嘆願しながら私に噛《かじ》りつくのでした。
「ねえジャック、私を信じて!」
と、彼女は叫びました。
「今度だけでいいから、私を信じて。――あとで悲しまなければならないような原因を作っちゃいけないわ。――私、あなたのためでなければ、あなたに何もかくしたりなんかしやしないの。ね、それは分かって下さるでしょう。私たちの命が、これにかけられてあるのよ。けれどあなたが私とこのまま家《うち》へ帰って下されば、すべてはうまく行くの。そうでなくて、もしあなたが無理にこの家《いえ》の中へ這入っていらっしゃれば、もうそれまでなの」
彼女の熱心さとそして憂わしげな様子とは、私を思いとまらせました。そして私は入口の前に心をきめ兼ねて立っていたのです。
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