っていることが、だんだんはっきり分って来ました。私はこの時ならぬ時間に妻が外へ出て行くような恰好をしているので驚いて、――と云うより何か叱言《こごと》を云おうとしたのですが、私の口からは何か寝言めいた言葉が出てしまいました。がその次の瞬間、目を細くあけて、蝋燭《ろうそく》の光りで照らされている彼女の顔を見た時、私はハッとして咽喉《のど》がつまってしまいました。私は彼女のそんな顔つきを未《いま》だかつて見たことはありませんでした。――それはどう見ても彼女だとは思えないような顔つきでした。――まるで死人のような真蒼《まっさお》な顔色をして、呼吸《いき》をはずませて、私の目をさまさせはしないだろうかと、マントを着てしまうと、コッソリと私の寝台のはしをうかがうのでした。がやがて、私がグッスリ寝込んでいるものと思いこんで、ソッと音のしないように部屋から滑り出していってしまいました。それからちょっとたってから、鋭い何かが軋《きし》むような音を耳にしました。それは玄関の戸の蝶番《ちょうつがい》の音らしいものでした。――私は寝台の上に起き上がって、自分が本当に目を覚ましているのかどうかを確かめるため、拳固《げんこ》で、寝台のフチをたたいてみました。それから枕もとの時計を手にとりました。暁方《あけがた》の三時でした。――一体、私の妻は、こんな暁方の三時なんて云う時間にこんな田舎道に出かけていって何をしようと云うのでしょう?
私は廿分間《にじっぷんかん》ばかり、あれやこれやと考えてみて、何か心に思い当ることを見つけようと思って、じっと坐《すわ》っておりました。そしてそれからまだしばらく、一生懸命考えてみましたが、しかし何も思い当ることはありませんでした。――私は全く途方に暮れていました。と、ちょうどその時、ふと私は再び入口の戸が静かに閉められて、階段を上《あが》って来る彼女の足音を耳にしたんです。
「エフィ、一体、まあお前はどこへいって来たんだい?」
私は彼女が部屋に這入って来ると訊ねました。
と、彼女はビックリして、何か微かな叫び声のようなものをあげました。その叫び声と驚き方とは、いよいよ私の心の疑いを深めました。なぜならそれらは、そこに何か曰《いわ》くがありそうに思えたからです。――元来私の妻は不断から隠しごとの出来ない明けっ放しな性質の女なんです。それなのにその時に限って彼
前へ
次へ
全24ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング