君は一度に二発うたれたのだと云うようには感ぜられなかったかね?」
「さあ、それははっきりとは申し上げられないんでございますが――」
「しかしそれはきっとそうだったろう。さて検察官のマーティンさん、もうこの室で調査することは、全く尽きてしまったと思われるが、何でしたら今度は庭の方を歩きまわって、新たな証拠をさがそうじゃないかね」
書斎の窓の下からずっと、花壇になっていたが、我々はそこに近づいてみて、あっと驚かされてしまった。花は踏みにじられ、柔かな土の上には、足跡が一ぱいについていた。それは男性の大きな足跡で、特に足先が鋭く長い足のものであった。ホームズは草や木のあいだを、レトリーバー犬が傷ついた鳥を探すように、探しまわったが、遂に彼はひどく喜んだ叫びを上げて、身をこごめて、小さな真鍮《しんちゅう》の円筒を拾い上げた。
「僕はたしかに、ピストル又は、薬莢の自動排除装置があって、きっと第三弾があるに相違ないと睨んでいた、――」
彼は云った。
「さあ検察官マーティンさん、これでもうほとんど、この事件も調査が出来上ったですな」
この田舎検察官はしかし、ホームズのあまりに急速な、あまりにも鮮かな探査振りに、ただ驚歎の色を現わしているのであった。最初の中《うち》は多少は、自分自身の立場も、発揮したいような傾向も見えたが、しかし今はもうとても歯がたたないと観念して、ただホームズの為すままに、唯々諾々として、後からついて来るだけのことになってしまった。
「犯人は誰でしょう?」
彼は訊ねた。
「いやその事はいずれ後にしましょう。実はこの問題には、まだあなたにはっきりと説明しかねることが二三点あるんですがね。とにかくここまで来たのですから、僕はこの上もひた押しに押し切った方がいいと思われるのです。それから全部を明瞭に発表しましょう」
「犯人があがるまでは、ホームズ先生、あなたの御自由におやり下さい」
「いや別に秘密主義でゆこうと云う意味でもないのですが、いずれ事件の進行中に、長い込み入った説明をすることは難かしいことですからね。まあ僕はこの事件のすべての鍵は持っています。もし夫人が遂に意識を回復しなくっても、この事件は明瞭にすることが出来ますよ。まず第一に、この近所に、エルライジと云う名前で通っている旅館があるかどうか、確かめたいものだがね」
下僕の者共をよく審問してみたが、
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