ひねりまわさない中《うち》に解ったと云うわけさ」
「どうも僕には何の事か解らないね」
「いや誠に御もっとも至極――しかしこれはごく手短に説明することが出来るんだ。ここにそれぞれ取り外れていた、鎖の輪があるからね。第一には、君が昨夜|倶楽部《くらぶ》から帰って来た時は、君の左の手の指のあたりに、白いチョークがついていたこと。第二には、君が玉を突く時は棒《キュー》の辷《すべ》りをよくするために、チョークをつける習慣のあること。第三には、君はサーストン氏との外《ほか》には、決して玉を突かないこと、――第四には君が四週間前に、サーストン氏は、南アフリカの採金地の株式募集をやっているが、その締切りまでは一ヶ月あるので、君にも加入してくれと云って来たと話したことのあったこと、――第五には、君の小切手帳は、僕の抽斗《ひきだし》に入って錠が下りているが、しかし君はその鍵を決して僕に請求しなかったこと、――第六には、君がこのようにして、この株式に申込をしなかったと云うこと、――」
「ははははははは、何と云う馬鹿馬鹿しく解り切ったことだ!」
 私は叫んだ。
「全くその通りさ」
 彼はちょっと不気嫌になって云った。
「どんな問題でも、一通りわかってしまうと君には皆小供だましのように解り切ったものになってしまうのだ。ではここに未解決の問題があるが、ワトソン君、これには君はどう云う解釈を与えるね?」
 彼は一枚の紙を机の上に放り出して、また化学の分析の方に向き直った。
 私はそれを見て驚いてしまった。それは、何かの符牒の文字のようなものであった。
「何んだ、――これは小供の絵ではないか――ホームズ君!」
 私は叫んだ。
「ははははははは、そんなものに見えるのかね!」
「じゃ何なんだね?」
「これは、ノーフォークのリドリング公領[#「リドリング公領」は底本では「リドリユグ公領」]のヒルトン・キューピット氏が、しきりに知りたがっていることなんだがね。この謎のような問題は、第一回の郵便配達で来て、その人は二番列車でその後から来ることになっているのだ。ああワトソン君。ベルが鳴っているが、あるいはその人かもしれない――」
 重々しい足取りが、階段にきこえたと思う中《うち》に、一人の紳士が入って来た。脊の高い、血色のよい、綺麗に剃《あ》てられた紳士で、その澄んだ目、輝く頬、――と、ベーカー街の霧の中から
前へ 次へ
全29ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドイル アーサー・コナン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング